3人が3人、バラバラに私に話してくれた逸話である。
C葉君、TAKA嬢、広川君、安田君の4人は当時大阪で行われていた「花博」に行くため、C葉君が運転する車に同乗していた。
夜の東名高速を車はひた走っていた。
そのスピード、時速130キロ超。うるさいので車の速度警報は切ってあった。
時刻は午前2時…丑三つ時を回っていた。
この時間高速道路は行き交う車もまばら…。
しかも、今夜は山あいに霧が発生しているのか、道路には薄い靄がかかっていた。
安田君は仕事の疲れから眼鏡を外した姿勢でうたたねし、他の3人は起きてはいたが話のネタもつき、車内は静かだった。
その時だった。


車の前を人が横切った。

右から、左へ、歩いて。
…高速道路である。
しかも車は130キロを超えている。
まともに考えるなら、車と等間隔を保ちながら人が歩いて前を横切るなどありえない。
3人はそれぞれ目を剥いたが、そこはそれ、「今のは何かの間違い!」と忘れることにしようとした。

…すると
再び人が車を横切った。

それは、全く同じ人物だった。背の高い、男らしい。
今の事実を口にするか、3人がそれぞれ迷ってた時、
またもや彼は車の前を横切った。
三度とも、右から、左へ。

もう見間違いとは言いにくかった。
それでも自分からは言いだしにくく、今のを果たして他の者は見ただろうか…
とおそるおそる車内を見回した。
見たのは自分と同じ途方にくれた目だった。
「…今の…見た?」
「…見た…やっぱり…?」
「…男…だったよね…」
「…じゃ、同じの見たんだ…」
「…オレ、3度見たんだけど…」
「…そう…3回だった…」
「…歩いて横切ったよね…」
「…うん…」
「この速度で、車の前を歩いて横切るなんて、ありえないよね…」
「人間ならね……」
会話はそこでとぎれた。誰もその先を口にする勇気を持たなかった。

「…今の…安田君に似てなかった…?」
「え?」
3人は眠っている安田君を振り返った。
安田君は何も気づかず、スヤスヤと眠っている。
「そ…そこまでは見なかった。次に出たらよく見てみよう」
3人はいっせいに目をこらした。
しかし、4度めはなかった。


…3人が見たものは何だったのだろう。