| 私が中学生の頃、腹膜炎で入院していた時に体験した話だ。
 私の入院した病院は、埼玉県のU駅から程近いN医院と言うところであった。
 病室は入院棟の2階の一番端。あまり日当たりの良くない部屋であった。
 寝る事に関しては『いつでも、どこでも、いくらでも』が自慢の私が毎晩真夜中、病室のドアがきしむ音に起こされ、不眠症気味になっていた。
 「小口さん。毎晩、あんな夜中に巡回に来るものだから僕、眠れないんですよ。小口さん良く寝ていられますね。」
 「ここは、夜12時以降の看護婦の巡回はないよ。ああ、きっとそれは…。今晩、夜中に起こしてあげるよ。それが1番わかりやすいから…。」
 こうして、夜を向かえる事となった。
 *     *     *
 「ほら、起きて起きて。そろそろだよ。」
 小口氏に起こされ、私は眠い目を擦りながら起き上がった…。
 − ガチャッ -
 突如、物音ひとつない廊下でドアのきしむ音が響いた。
 「小口さん。あれ…。」
 「しっ!。ほら、聞いてごらん。」
 − ガチャッ -
 続いてドアのきしむ音が響く。
 どうやら音は廊下の端、私たちの病棟から一番遠い部屋でなっているらしい。
 − ガチャッ -
 不気味に音が響きわたる。
 − ガチャッ -
 「ほら、段々ちかづいてくる。」
 「えっ!。」
 - ガチャッ -
 確かにドアのきしみはひとつひとつ確実にこちらへと近付いてくる。
 
 - ガチャッ -
 
 二つ隣の部屋のドアが鳴る。
 「実は、この現象はここでは有名で、何故か知らないけど毎晩、夜中の3時過ぎになると決まってドアが順番に、ひとつひとつきしむんだよ…。」
 
 - ガチャッ -
 
 隣の部屋のドアが鳴った。
 しかし、人が歩いてくる足音もなければ、気配すら感じられない。
 
 …ガチャッ…
 
 この部屋のドアが静かにきしんだ…。
 そして、私は見た。
 誰もいないはずの廊下からノブが回され、そしてゆっくりとノブが戻ってゆくのを…。
 
 
 後日、この事を看護婦に聞いたが、皆つくり笑いを浮かべたまま答えなかった。
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