あれは、まだ私が小学校6年生の時でした。今でも思い出したくないイヤな思い出です。
私たちの間で基地作りというものが流行りました。
そのころ、私の友達の家の近くに「やまびこ荘」なる使われていない小さな旅館がありました。
私たち遊び仲間5人は、そこに基地を作ろうという話になり、早速やまびこ荘のドアが開いているか調べに行きました。
幾ら長く使われていないとはいえドアは開いていなかったのですが、なぜかお風呂場の扉が開いていました
「ラッキー」
私たち5人は中へと入り、階段を上がって2階でしばらくくつろいでいました。
午後5時を回るころ、日も落ちて辺りは薄暗くなっていました。
突然、W君が、「怖い話をしよう」と言いだしました。
「やろうやろう!」
私たちは1階の小部屋へ移動し、怖い話を始めました。しばらくして、
「おれ帰る!」
T君が言い出しました。
まあ、暗くなってきたし、しょうがないかということで、みんなでT君を入ってきたお風呂場まで送りました。

T君を見送り、続きをしようと小部屋へ戻ろうと廊下を歩いている時でした。
一番後ろを歩いている私の後ろを何かがついてくる気がしました。
コツ・コツ・コツ
「待って! 誰かついてくる!」
みんなに声を掛けました。
「誰もいねーよ。」
友達は言ってまた、歩きだそうとしました。釈然としない私でしたが、彼等を追って歩き出そうとしました。
ガタン!
「わっ!!」
閉まっていたはずのふすまが私のところに倒れてきました。

「なんで!?」
私は倒れてきたふすまをはらいのけました。

スーッ…パタン!-------スーッ…パタン!-------。

ふすまの外れたその部屋から、何か音がします。

スーッ…パタン!-------スーッ…パタン!-------。

それは何かを開け閉めしている音でした。

みんなその音に、惹かれるように一斉に部屋の中を覗き込みました。

スーッ…パタン!-------スーッ…パタン!-------。

押入れのふすまが開いたり閉まったりしていました。
「えっ?」
みんな目の前で何が起きているのかすぐに状況がつかめません。
そのうち、開いたり閉まったりする押入れの中にふすま掴んでいる手が見えました。
青白く透き通るような手でした。

スーッ…パタン!-------スーッ…パタン!-------。

その手は押入の中から、何度も何度も開け閉めを繰り返していました。
私たちは、その光景に声も出せずに顔を見合わせていました…。
「わあっ!!!!」
ひとりが叫んだと同時に私たちはお風呂場の扉まで一直線で走出しました…。

「なんで手が…」
「どうしてあそこにいるんだよ…」
外へ逃げ出した私たちは今見た光景について興奮しながら、話していました
「お、女だったよな!」
「あ、あぁ…」
「何で、女の人が…」
いつしか、私たちはあの手の持ち主について、「女」だったと話していました。私たちが見たのは手だけ、しかも少しの間だけだったのに「女」の手と全員が確信していたのです。
なぜだったのか…。
       ※       ※       ※
あれからかなり経ち、その山荘のあった場所も空き地になっています。
しかし、そこは今でもとても空気が重い感じがするのです。
かすかな記憶ですが、その山荘の外に井戸のようなものがあり、井戸の内側にはお札のようなものが貼ってあったのを覚えています…。



投稿者:yujiさん