数年前、私が東京の池袋駅北口前にある雑居ビルで働いていた時のこと。

ある夏の夜。
夜間の宿直当番になったその日、先に帰ろうとする同僚数人を引き止め研修室にて、むりやりテレビゲーム大会を開いた(たしか桃太郎電鉄だったような)。
研修室は3階にあり、ブラインドの掛かった窓(幅8M程)と入口の扉以外、
窓ひとつなく、廊下からでも、中で何をしているかわからない、遊ぶには絶好の部屋であった。
しかもそこには、おあつらえ向きに、大型テレビと、ビデオデッキが設置してある。
まさに、遊んでくれといっているような場所だった。
比較的若い社員が多い職場のため、マージャンよりもテレビゲームが好まれ、結果この場所でのゲーム大会がたびたび行われていた。

といっても、万が一帰宅したはずの上司が戻ってくるかも知れない。
そこで、遊ぶときはいつも念のため室内の電気を消して遊ぶこととし、この夜も、電気を消しテレビの明かりのみでゲームを楽しんでいた。

12時をまわった頃、私がふと動く人の気配を感じ目線をあたりに向けると、閉めかかったブラインドの向こうを、
背中を丸めたひとりの男  がゆっくりと歩いて行くのが見えた。

よれよれのコートを羽織った、痩せた男がゆっくりと窓の端から窓の端まで・・・。

しかし、窓の外にはベランダはおろか、人の歩ける場所もない。
しかも、向かいのビルまでは道路を挟んで20M以上離れている。
当然、向かいのビルにも、周りのビルにもベランダは無い・・・。
まさか、ブラインドと窓のわずかな隙間(10センチ位)に人がいるわけは無いし、真っ暗な室内の人影が窓に映りこむ訳はありえない。
第一、部屋の中で動いている者は一人もいないのだ!!
私は、今起きたことにショックが隠せず、窓を見つめ呆然としていた。

ふと、視線を隣に向けると、同僚も窓を見つめたまま呆然としているのが見えた。
同じものが、彼にも見えたのは間違い無かった。
「おいっ。なに2人してボーっとしてるんだ?」
窓を見つめ、呆然としている私たちに、他の同僚が声をかけた。
「おい!どうした!なにかあったのか?」
「いや、じ、実は、今しがた、窓の外を・・・」
私が今起きた事を、話そうとした、その時!!
「・・・・・・・・・・!」

全員が見ている前で、さっきの男が窓の外を、しかも今度は、こちらを覗きこみながら、 ゆっくりと通り過ぎていった。


にやにやと薄笑いを浮かべながら・・・・。


その日は、同僚を拝み倒してみんなで宿直をした。以後、夜の研修室でのゲーム大会はなくなった・・・。