こわい話、というとつい聞きたくなるのが人情である。
しかし自分が語り手になろうとは・・・。  かなり以前の話になる。
それは友人のA女史が、怖い同人誌を買ったと電話をしてきたところから始まる。
なんでもオリジナル系同人誌即売会で買ってきたのだそうだ。
内容は
『頭の中にキャラクターの名を語る獣霊が棲みついて、
                       会話をしたり、眼の前に出てきたりする』
というものだった。
怖かった。 半端でなく怖かった。
A女史はその本を貸してくれると言ってくれたが、丁重にお断りした。
怖さのあまり、その夜は電気をつけて寝たほどだ。
なぜそんな怖かったのか。

全く同じ話を私は知っていたからだ。
同人誌では『キャプテン翼』のキャラクターだったということだったが、その人は『宇宙戦艦ヤマト』のキャラをつれていた(古い)。
一度しか会ってない友人の知り合いで、お茶会に現れた彼女の印象は、変なところの何もない、ごくごく普通の身なりのいいお嬢さんだった。
最初はありがちな話題から始まり、盛りあがって来た時、不意にその話が出た。
「私のそばにはヤマトのみんながいるの。」
彼女が言うには「いつもそばにいて、姿も見えれば会話もできる」というのだ。
「ええ〜?ほんと〜?今もいる?。」
と、半ば茶化して尋ねた我々に、彼女はまじめな顔で、
「ええ、今もそこにいるわ。」
と何もない空間を指さしたのだった。
「!」
我々は目が点になった。
彼女の話によると、キャラたちは想像でなく実際にいて、彼女に話しかけたり、キャラ同士で会話するのだという。
「アニメではこうこうこういう表現をされてるけど、ほんとは彼はこんな性格なの。」
と彼女の話はだんだん熱を帯びて来る。
「アニメのキャラとはいえ、いったん名前を与えられると、魂が宿るものなのよ。」
とも…。
 そういう彼女の話を否定する理由もない我々は、ただ相槌を打っていた。
         *   *   *
同じ話がまた別の場所であった。
彼女の場合は最初、自分のオリジナルキャラが周囲に現れる、というところから始まった。それは、彼女がオリジナル作家だった為だ。
ところがある時彼女は『闘将ダイモス』というアニメにのめりこんだ。
『ダイモス』と言っても今の人たちはわからないだろうが(笑)、故長浜監督の美形悪役がでる二十年以上も昔のロボットアニメである。
彼女はその敵役の、『リヒテル』 という背中に白い翼をもった、金髪の美形キャラに傾倒した。
ある時、霊感の強い友人が、たまたま彼女の姿をみかけたところ、その友人が
「あれっ!」
と声をあげた。

「あの子、すごい形の霊を連れてるわ。」
「え、なに、なに。」
「長い金髪で白い翼持った男の形をしてる。」
その友人は彼女が『リヒテル』に傾倒し、『リヒテル』の霊と会話ができる、などという話を知らない。なのに、実際に『リヒテル』の姿をしたものが見えるなんて!
霊が彼女の望む姿になっているのか、その辺は私にはわからない。
話す分には普通の人で、霊にとりつかれている感じはない人だ。
でもあんな話を聞くとこわくなってしまう。


− それだけの話だ。