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| 友人の、C君がロサンゼルスへ行ったときの話である。 常に不運の神に抱かれている彼の今回の旅も、現地に到着と同時に始まった「ロス暴動事件」によって灰色の物となっていた。 町中には、暴徒が溢れかえり、当初予定していた観光地巡りも出来ぬまま数日が過ぎようとしていた。 「しゃーない。この辺の店でショッピングでも、楽しむか!」 彼は、辛うじて暴動の中心から離れている、このホテル周辺を散策することにした。 しかし、暴動事件の影響からか、暴徒を恐れた店のシャッターはことごとく降ろされており、彼の喜ぶような物を扱う店はまったくなかったのである。 仕方が無く、とぼとぼとホテルへと向かう彼の眼に、一件の店の看板が飛び込んできた。 「… 骨 屋 (ほねや) …」 その名前は、彼の興味を引くには充分だった。 他に見てまわる場所もない。早速、彼はその店に飛び込んだ。 店の中は、薄暗く店の壁一面に陳列棚が並んでいる。 時折蛍光灯が点滅を繰り返し、そこには辛気くさい空気が充満していた。 薄暗い店の奥には、陳列棚に囲まれてガラス製のカウンターに、店主らしき男がぽつんと独りで座っており、棚には動物の物らしい骨がきれいに磨かれて陳列されていていた。 「標本屋かな? なんか思っていたのと違うような…?」 場違いな雰囲気にC君は、そそくさと店を出ようと出口に向かった。 「よぉ、坊や。よく来たね。」 と、その様子に気づいた店主がすかさず彼に声をかけた。 「こっちへおいで。」 初老の男は、にやりと笑うとC君を手招きした。 「坊や、おいで。坊やのおこづかいでも大丈夫だから。」 どうやら、男にはC君が少年に見えるらしい。 C君は渋々男のいるカウンターへと向かった。 「よく来たね。坊やは何がほしいんだい?」 何がほしいと言われても、あてもなく飛び込んだ店である。 当然、決まった物などあろうはずはなかった。 「ん〜…。」 彼が、返答に困っていると 「これは、どうだい? バッファローの大腿骨だよ。」 と、カウンターの上にある大きな骨を見せた。 「ん〜…バッファローねぇ…。」 彼の煮え切らない様子を見て男は、鍵のかかった棚から大事そうに 高さ30センチくらいの、恐竜の骨のような物を取り出した。 「これはね、いろんな動物の骨を集めて作った、ティラノサウルスだよ。 この店のオリジナルだ!坊やだったら安くしてあげるけど…?。」 それは、何の動物か判らないが、いろいろな動物の骨を 接着剤でつなぎ合わせ、造り上げた恐竜の骨格標本のミニチュアだった。 プラスチック製のこういったものは見かけるが、本物の骨を使って作られたこういう物は、造形の仕事をしている彼でも、初めて見る代物だった。 確かに、その骨で出来たティラノサウルスは彼の好奇心を充分くすぐった。 だが、そのディスプレイ台に付いている金額は、非常識を越えたものであり、どうやって値引きされたとしても、C君の手持ち金をはるかに超えていた。 彼は、困ってしまった。 冷やかし半分で、しかも言葉もままならないこの状況でどう断るか。 もはや骨のことよりも、そのことが彼の頭をぐるぐる回っていた。 「ん〜…。ぼくはですねぇ…。」 C君は何とか、少ないボキャブラリーの範囲で意志をつたえようとした。 「わかった! 坊や! 坊やの興味ある物を指さしてご覧!」 業を煮やした店主は、大声でこう言った。 そして店主は、彼を瞬きもせずに見つめている。 その目はまさに一瞬も見逃さないと言うような、真剣そのものであった。 こうなると、「冷やかしでした」とは言えるはずもない。 タイミングを逸してしまった彼は、とりあえず何か手頃な物を買って、 早くここを出ようと思った。 「坊や、どれにするんだい?」 「ん〜…………それがいいかなぁ。」 C君は、男の背後にある棚の一角を指さした。 そこには、様々な動物の頭骨が陳列してあった。 「これかい?これはお馬さんの頭の骨だよ。」 C君は首を振った。 「いや、その隣の隣にある、おさるさんのがいいな。」 それは、握りこぶし大の、かわいらしい猿の頭の骨だった。 これなら、大きさも手頃だし日本への持ち込みも出来るかもしれない。 彼の心は決まった。 「おーっ!坊やはいい目をしている。これはおじさんの自慢の一品なんだよ。」 店主は上機嫌で、猿の頭骨を取り上げ、カウンターの上に置くと、 「坊やは、どうしてこれが気に入ったんだい?」 骨の上の埃を丁寧に払いながら、店主はC君に訪ねた。 「あ・あの〜、おさるさんが大好きだし、 なんと言ってもおさるさんの赤ちゃんは、ちっちゃくてかわいいから。」 その言葉を聞いて店主は、よりいっそうの笑顔を振りまきながら、 「よく坊やはこれが、赤ちゃんだとわかったねぇ。 よし、サービスだ! 坊やには、大まけにまけてあげよう。」 と、破格の値段を提示してくれたのだった。 それは、C君が充分余裕をもって買える程度の金額だった。 商談は無事成立した。 C君が財布を開き、代金を支払おうとしていると店主が言った。 「坊や、いい買い物をしたねぇ…。 これは、他じゃ滅多に手に入らないんだよ。」 その言葉にC君は、改めて店主を振り返った。 店主は、C君を見据えながら ’にやり’ と笑った。 「だってこれ、おさるさんじゃないんだから……。」 |
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