幼かった私は母と姉に連れられて植木市にでかけた。
道なりに様々な植え木がならべられ、私たちは何買うわけでもなくそぞろ歩いていた。
あるいは親は何かを買うつもりだったかもしれないが、それは当時の私には関係がない。
ふと、私の目は道端の五衛門松に吸い寄せられた。
五衛門松とは盆栽に使うような小さな鉢植えの松である。
そこには2つ、全く同じ枝ぶりの松が並んでいた。その片方だけが…
… 燃えていた …
燃えるといっても、本当に燃えているわけではない。
黒い透明な炎が、葉の一本一本からいぶり出るように吹きあがり、松全体がめらめらと燃えあがっているのである。
私は棒立ちになった。
他の人は誰も気づかないのか。あんなに激しく、あんなに黒く燃えているのに!
炎はひどく邪悪な気配を帯びていて、見つめているだけで気分が悪くなる。
私は、私を見にきた姉をせきたてるようにして、その松の前を離れた。
あれが松が悪いのか、その松を置いている場所が悪いのか、私にはわからない。
ただ、そんなはずけっしてないのに黒く燃える松の炎は

私の中に恐怖として残っている。


この炎を、私は小学校に入ってからもう一度見ている。
学芸会の垂れ幕の一番左下に、黒い炎がずっと燃えていて、
学芸会の間中燃え続けていた。

何なのかわからないが、その時もこわかった。