イギリスの城塞都市、ヨークについたのはもう夕方、太陽は沈みかかっていた。
『沈むな北の太陽!』 しかし無情にも夕闇はせまった。
目指すは中世に建てられたこの都市の中心、ヨーク大聖堂である。
のんきにバイキング博物館など見てしまった我が身を呪いながら、私、S木さん、C葉氏の3人はひたすら走った。

- カーン… カーン… カーン… -


折しも日没の鐘が鳴り始めた。
あの鐘が鳴り終わったら大聖堂は閉館である。
急げ、急げと、3人は鐘の鳴る方へ一心不乱に走っていった。
すると目の前にアーチのかかった小径が現れた。
よくみる西洋の中庭に通じるような抜け道で、いくらか向こう側が明るく見える。
アーチには何か字を書いたプレートが打ってあった。確かガイドの話によると
上に字の書いてあるアーチは袋小路でなく、通り抜けが可能なはずだ。
しかし、妙な気配に3人とも小径に入るのをためらった。
なぜなら道のこちらはこんなに大勢人が行きかっているのに、小径の中は誰もいないのだ!
しかしC葉氏が、
「だいじょーぶ、平気さ!」
と、飛びこんだのにつられるように、私たちも遅れじと後に続いた。
そこにいたのは一瞬だったと思う。
しかし、あまりに異様な光景はしっかり私の目に焼きついた。
アーチをくぐると右側には板塀がそびえ立ち、空の明るさは見えるものの、その向こうに何があるのか全くわからない。
左側は漆黒の闇。 
私は背筋が寒くなる感覚と共に足もとをチラリと見て、すぐ前だけを見た。
とにかく、すぐ眼の前を走るS木さんの背中を追った。
早くここから出たいという恐怖に駆られていた。
何故なら、あんなに空が明るいのに、私は自分の足が見えないのだ。

- カーン… カーン… カーン……………… -

不意に大きな通りに飛びだした。
そこで最後の鐘が鳴り終わった。

…不幸にも我々は大聖堂に入ることはできなかった。
とぼとぼと、ヨークの街中を歩く私に、S木さんが震える声で尋ねた。
「ねえ、私たち、どこから出てきたの?」
私たちは小径を探して、大通りを往き来した。
うすうす感じてはいたが、案の定、どこにもそんな小径はなかったのだ。
同じ頃、C葉氏も他の仲間と一緒に、小径の入り口を捜していた。
しかし彼らも、私たち同様、小径を見つける事ができなかった。
それはたぶん、私たちが通ったその時だけ、小径が開いていたからであろう。
なぜって? 黄昏時は逢魔ヶ刻…。

しかもこの日は
10月31日、ハロウィーンだったから…。