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| その日、疲れた体を引きずって数日ぶりに私は帰宅した。 帰るといつもの癖で、テレビをつけると、シャワーを浴びにバスルームへむかった。 シャワーでさっぱりし、コーラを片手に部屋に戻ると、テレビでは、「犯罪都市24時!逮捕の瞬間」などというような番組が流れていた。 私は腰をおろすと、コーラを飲みながら、何気なくその番組をみはじめた。 テレビには、網棚かなにかに設置されたCCDカメラからの、満員電車の車内が写っていた。 どうやら、痴漢逮捕の瞬間を捕らえようとしているらしい。 聞き覚えのあるナレーターの声が聞こえた。 「A子さんは、毎日通勤列車の車内で、特定の男からの痴漢行為を受けていた。」 痴漢は、私の憎むべく犯行である。 (過去には、ふたり程、痴漢を警察に突きだした経験もある) 「いったい、どんな馬鹿な奴なんだろうか?」 私はテレビの画面を見据えた。 「どうやら、毎日同じ男からの痴漢行為を受けているらしく、彼女は、最寄りの池袋駅・鉄道警察隊に相談した。」 池袋駅? なんと私の最寄り駅の隣だ。 話が、身近になった事でいっそう私の眼は、テレビに釘付けになった。 そしてA子さんは、数人の捜査員を伴い、いつもの通勤列車に乗り、にっくき痴漢野郎を、現行犯で捕まえる事となったのだった。 「A子さんは、いつも通り自宅そばの駅から、普段通りに列車に乗った。痴漢はいつも次の駅から乗り込み、終点の池袋までの一駅間で犯行に及ぶという。」 「…………。」 「いつも痴漢が乗り込むという駅に着いた。 一斉に乗客が乗り込んでくる。」 それは、見覚えのある駅だった…。 「一人の大柄の男が、A子さんの傍に立った。捜査員に緊張が走る。」 テレビには、ネイビーブルーのワイシャツを着た大柄の男が写っていた。 直ぐさま、その男とA子さん、それとそれを取り囲む捜査員に、テロップの矢印があらわれ(→ こんなの)、三者の位置関係が表示された。 私は、その痴漢であろうとマークされている男に見覚えがあった。 毎日、毎晩、自宅の鏡に写る、見慣れた男。 そう、 「私」 だった! 一瞬にして、「観客」から「当事者」に立場の変わってしまった私は、今ここにいる自分とテレビに中の自分の異なる旅場に、思考回路は大混乱を始めていた。 「頼むから、なにもしないでくれ〜っ。」 気が付くと、訳の分からないことを口走っている。 そんな私の願いもよそに、画面上の私に捜査員がじりじりと詰め寄ってくる。 痴漢されたた瞬間、A子さんから合図があり、それにあわせて捜査員が一斉に犯人を取り押さえる手はずらしい。 「奴がいつもA子さんに、痴漢行為を働く、にっくき痴漢なのだろうか?」 「ち、ちがう、ちがう!」 「挙動不審の男の行動を確認するため、捜査員がゆっくりと近寄っていく。」 「きょ、挙動不審?…。」 そして捜査員が、ついにA子さんと私をぐるりと取り囲んだ。 混乱と、怒りが混じる私の目の前で、ナレーションはいっそう大きく続ける。 「奴は、いつ犯行に及ぶのか?男の一挙手一投足に捜査員の緊張が、最高に張りつめたその瞬間!!」 「ええっつ! まさかっ…?!」 「池袋〜 池袋〜 終点池袋で〜す。」 列車は駅に到着。 ドアの開いた瞬間、捜査員が私の横の男を捕まえると、他の乗客に気づかれないよう取り囲み、連行していったのだった! 「犯人現行犯逮捕!」 ナレーターは叫んだ。 私は、ぐっしょりと濡れた手のひらの汗を拭いながら、訪れた安心感に、ほっと胸をなでおろしていた。 とりあえず、自分の身の潔白が証明されたことと、テレビの中の自分に間違いがなかったこと、そしてこの悪夢のような全国放送がとりあえず、私でない犯人逮捕で終わることに……。 テレビでは、犯人逮捕を受け、痴漢コーナーの締め括りが語られていた。 「捜査員が捕まえたのは、マークしていた大柄の男ではなく、その隣に立っていたやせた小柄の男だった。その後の取り調べの結果、犯人はその日たまたま痴漢をしたものと判明。いつもA子さんを苦しめている 痴漢とは別人とわかった。捜査員は、今後も痴漢撲滅のためA子さんの周囲を警備、挙動不審者逮捕にむけて捜査を続けている……。」 「おいおい! それじゃぁ、私が犯人って決めつけてないか?(怒)」 |
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