私が高校2年のある夏の日の話である。
文化祭の準備に追われ学校を出たのは夜の11時を過ぎていた。
私はいつもの様に方向が同じS子と2人、自転車で家路を急いでいた。
しかし、いつも通る帰り道を何故かその日は通らずに、いつしか2人は小学校の脇を走っていた。
「あれ?。何でこっちに来ちやったんだろう?。」
「S子がこっちに来たから、俺はついて来たんだぜ。」
S子は怪訝そうに首をかしげ、自転車を止めた。
「ごめん…。ぼーっとしてて、道を間違えたみたい。」
彼女はそう言い、あわてて、今来た方向に自転車を切り回そうとした。
と、その時…。
「あっ、
花。きれいね。
花?何処に…?。」
彼女は小学校の校舎の階段にある明りとりの大窓を指さした。
窓の手前、暗闇の中に白い花が綺麗に咲き乱れている。
が、何か様子が変だ。風も無いのに花びらはそよそよとなびいている。
加えて花の咲いている木が、どう探してもわからない。
つまり、ここからだと、花びらだけが窓ガラスに張り付いている様にみえるのだ。
「あ、あれ…。」
彼女は突然、小さな声を上げ顔を引きつらせている。
私が状況を理解するのにそう時間はかからなかった。


『花』にみえたそれは、
無数の『手首』が窓に張り付きモゾモゾと蠢いてる姿 だった。