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物の見方が逆になると、物語はさらに面白くなるというが、怖い話にいたっては、どっちにしても、怖いだけだと思い知らされる。 かれこれ、10年以上も前のことである。 当時、道路工事の夜間警備で東京・H市役所前へ行っていた時のことだった。 そのころは辺りに民家もなく、ましてやコンビニなどは普及していない時代である。 工事の明かりと信号の明かり、それと時折走り去る車のライトを除いて周囲一帯は漆黒の闇が辺りを支配し、時折聞こえてくる小さな虫の声が、ここが本当に東京なのかと思わせてしまう、そんな雰囲気を持った場所だった。 工事が始まり一週間ほど経ったとき、新人の一人が食事の時にこんな事をいった。 「先輩、タクシーの『空車』ランプって、お客が乗ると消えるんですよね。」 「ああ、そうだよ。」 「あれって、人が乗っていない時に消えてる場合ってあるんですか?」 「それは、ないだろう。代わりに『迎車』や『回送』って点くんじゃないか?」 「いや、そうじゃなくてなんにも点いていないんです。」 「故障とかなら、何にも点かないこともたまにはあるだろうけどなぁ…。」 「いえ、たまにじゃなくて毎晩なんです。」 私は彼に詳しい話を聞くことにした。 彼の話はこうであった。 交差点の前で、勤務している彼の目の前を、毎晩ほぼ同じ時刻(2時前後)に『空車』ランプの消えた(つまり賃走中)タクシーが通るのだという。 それらの、タクシーはすべて違う会社の車であり、中には信号待ちで運転手が、誰もいないはずの後部座席を振り向きながら一人で話しているのを見た、というものだった。 「先輩!今日来たら無線機で知らせますから、見て下さい。」 彼はこう言って、自分の持ち場に戻った。 × × × 「先輩! 先輩っ! 来ました。黄色い奴です、どーぞっ」 私は、交差点からこちらへ真っ直ぐ向かってくる黄色いタクシーを目で追った。 やがて、タクシーがはっきりと見えてきた。 『空車』ランプは消えていた。 よく見ると運転手は、乗客となにやら話している様子である。 しきりに、にやにやしながら後ろを振り返っていた。 しかし、その後部座席に乗客の姿はなかった。 そこには、何も無い空間に独り話しかけている運転手の姿だけがあった。 「先輩!どうでしたか!」 突然無線がなった。 「あ……あぁ…。」 私は、去りゆくタクシーを、あわてて振り返って見た。 「………!!」 タクシーの後部には白いもやのようなモノがまとわりついていた。 そして、今まで誰もいなかったはずの後部座席には、白くぼんやりと誰かが座っていた。 何年か後に、ある怪談本を呼んだとき、この場所でタクシーの乗客が消た話が、 心霊現象多発地域として地図付きで、紹介されていた。 |
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