ふっと思い出した出来事ですが、とても不思議な体験があります。
私が小学生のころ。
結婚していた姉が姑と折が合わなくて家から追い出されました。
結局、裁判などをして離婚することとなりました。
しかし、子供は父親側に引き取られることとなり、失意の姉は実家に戻ることも出来ずたった独りで実家のそばにあるアパートに独り暮らしする事となりました。
しかし、姉の住むことになったアパートは、お風呂もトイレも共同の古い建物だったので、姉は、実家の県営住宅まで毎日お風呂を借りに来ていました。

引越からしばらくして、生活も落ち着き始めた姉は、結婚前の職場に復帰することにしました。
しかし、その職場というのは元旦那の家の近くでした。
その朝、父と母はそんな場所では何かと気を使って不便では無いか、と話していました。
と、その時電話が鳴り、私が取りました。
「もしもしりょうちゃん?」
それは姉からの電話でした。声の様子で姉は泣いていました。
「おかあちゃんおる?」
「おねえちゃんどうしたの?」
私が聞くと、姉は泣きながら言いました。
「お義母さんが私の職場にな、勝手に退職願いだしとるんよ…。お姉ちゃんもう仕事がないんよ…あ、あんまりだわー」
そう言って泣き崩れてしまいました。
私はすぐに母に電話を変わりました。
電話を受け取った母は、姉を力付けるように強い口調で、
「もうええから、早うかえっておいで。新しく職を探すんだけん」
そう言って姉に話しかけていました…。

その日私は学校にいても姉のことが心配でした。
学校が終わると、急いで家に帰りました。
しかし、家には誰も帰ってません。
そのうち父、母も帰ってましたが、一向に姉は来ません。
そのうち、日も暮れて夜になりました。
朝のただならぬ様子もあり、父は心配のあまりアパートまで様子を見に行きました。
しかし、姉はアパートにもいません…。

こうなるとみんなは、姉の事をあれこれと心配せざるを得なくなってしまいました。と、その時…
「ただいま!」
玄関で姉の声がしました。
私たちは玄関に飛び出て行きました。
「いままで、なにしとったん!」
母が姉に声をかけました。
「… ?! …  なにがよ?  疲れたわ、風呂に入るで」
姉はいつものようにお風呂に入りに来たという感じです。
しかし母はそんな姉に続けました。
「今日な、母さんの友達に仕事のこと相談したから、心配せんでええよ…」
「なんの話ししとるん?」
と、姉は一向に事態を理解できないと言った様子です。
仕方なく母は、今朝の電話の件と、その後の経緯を姉に問いだたしました、しかし…
「なにいっとる? そんな電話せんよ。今まで仕事して帰ってきたんよ。」
姉は怪訝そうな顔をするばかりです。
お姉ちゃん電話出たら泣いとったがん、私も電話出とるんよ」
私も言いました。
「みんなしてなにいっとるん!?」
家に来るなり突然、訳の分からない事を言われたためか、姉は怒って足早にお風呂場へと行ってしまいました。
その様子を見た、父と母は狐につままれた様なおもむきで、部屋へと入っていきました…
       ※       ※       ※
そして幾日か後、私は姉のアパートに泊まりに行きました。
夜、姉と話していると
「おねえちゃんな、一人ぼっちになって本気で何度も死のうとしたんよー」
と冗談半分のように言いました。
私は妙にあの電話のことが気になって、怒られるのを覚悟で姉に尋ねました。
「あの電話のことなんだけど、私が電話にでたんよ。お姉ちゃんと話したで、本当に、あっちのお母さんに会社勝手に辞めさせられたって、泣いとったんよ」
姉は怒りもせず、
「あん時は本当になに言っとっるんか?と思って頭がおかしくなりそうだったわー。 私が電話したってみんなそろって言ってくるけん。あの日ちゃんと朝から晩まで仕事してたんよー」
そう言って、自分は電話はしていないといいました。
そして、姉はその後こう続けました。
「でもな、何故かあの日はすごい緊張で、仕事場に入るまで不安でしょうがなかったんよ…」

今となっては分かりませんが、離婚前から精神的に追いつめられていた姉の心が、もうひとりの姉に電話をさせたのではないでしょうか…。
でも、本当に不思議でならなかったです。 あのことは、いまでも忘れられません…



投稿者:りょうこさん