もう15年も前、伊豆でのことです。
A家(A夫妻、子1人)、B家(B夫妻、子2人)、そして私を含め8名が体験した話です。
A、B、私は昔のバンド仲間で、当時私だけが未婚でした。
ある年の夏私たちは伊豆へ車2台に分乗しAさんの別荘へバンドの練習(お遊びですが)へ出かけました。このときは楽しい夏の休暇になるはずでした。

 
たしかお盆前だったと記憶しています。言い出したのはAさんでした。
「今度、俺の親父が持っている別荘で久々に練習するか。海は子供も喜ぶし。」
私は身分的に乗る気ではなかったのですが、強く勧められB夫妻の子守り兼で引き受けることになりました。
A家B家で車を出し、私はB家の車に乗る形で伊豆へと出発しました。
 
朝の出発で遅くとも夕方には別荘に着く予定でした。
伊豆へ行ったことがある方ならご存知かと思いますが、夏の伊豆路は大変混み渋滞に泣かされます。そのことを考慮に入れての行程でしたが修善寺を過ぎた頃はもうお昼を回っていました。
そして雲行きも段々と悪くなりだし、予定は大きくずれ込みそうになっていました。
と、前を行くAさんの車が路肩に停車するとAさんが苦笑しながらこちらの車へやってきました。
「たまらんな〜この渋滞。裏道で行きたいけどイマイチ道を覚えていないんだ。もしかすると迷うかもしれないけどいいかな〜?」
「走っているほうが気分的にいいから、行ってみるか」
同じいらだち感じていたBさんは即座に答えました。
「それじゃっ!」
Bさんの同意に少し機嫌を良くしたAさんは、小走りで自分の車に戻っていきました。
Bさんの車は1ボックスカーで前にBさんと奥さん。後ろの座席には私と子供たちが乗っていましたが、長い渋滞で子供たちも寝てしまった為、私は助手席に移り、奥さんは子供たちと少し寝ることになりました。

前を行くAさんの車は、少し行くと右にウインカーを出し細い道へと入って行きました。
私たちの車も後に続きました。辺りの景色が山になったり、田んぼになったりと確かに「裏道」を進んでいました。時には舗装されていないあぜ道の様なところすらを走ったりしました。
裏道を走り初めて40分ほど経った頃だったと思います。
割と新しい道で左側が山で右側に少し広い歩道のある、緩い左カーブの道へと車が出ました。
Aさんの車が何かを見つけたのか、カーブ途中で停車しました。
気づくとAさんの車の右側歩道に小さな男の子が両足を抱え座っています。
私の乗る車も、Aさんの車に近づいてゆきました。
「?!」
その子は全身水浸しで頭からズボンまでずぶ濡れでした。
辺りは雨が降った様子もありません。
「かわいそうに、誰かにいじめられたかな?」
私は直感的にそう考えました。
が辺りには民家も何もありません。
「おかしいな・・この子・・」
その時私の目には、この子の肌が青白く、というより肌が透けているように見えました。
Aさんの奥さんが車の窓越しになにやら話しかけています。
「どうしたの?ボク。早くお家に帰りな。」
私も男の子にそう話しかけました。
しかし、その子は膝に顔を押し付け下を向いたまま少しも動きません。
「お家は何処?」
Aさんの奥さんの問いかけに、ようやくその子は右手だけ動かし、うつむいたまま右の方を指差しました。「乗せて送ってあげるからおいで」
と奥さんはやさしく男の子にそう声を掛けました。
しかし男の子は、また右手を下ろし黙ったまま…。
一向にラチの開かない状況が続き、私はBさんと相談して、この子の親に知らせようという結論になりました。彼が指差した前方に見える家がその子の家だろうと勝手に思っていました。
私はAさんにその旨を知らようと、車を降りました。しかし、なぜだか私はその時、車を降りるのが嫌だと感じていました。
今思えば、私が車を降りるまで何故か誰も車を降りようとはしていなかったのです。
 
とりあえず、Aさんの車と私達の車は、一端その子をそこに残し走り出しました。
車は直ぐに彼の家と思われる民家に到着しました。農家のような家でした。
Aさん、Bさん、私の3人は玄関のインターホンを鳴らしました。
「はい。」
暫くするとドア越しに返事が聞こえました。
「失礼ですが、5歳ぐらいの男の子がお宅にいらっしゃいますか?」
Aさんが訪ねました。
「いません」
ドア越しにそう返事が帰ってきました。すかさずAさんが言いました。
「?…先ほどこの先のカーブで男の子を観ましたので、もしかするとと思ったのですが…」
「え?」
玄関のカギを開ける音と共に中からは、30代後半と思われる女性が出てきました。
女性は、玄関の下駄箱の上にあったハンドバック取ると、中から写真を取り出しました。
彼女は写真を私たちに差し出しながら、か細い声で
「この子でしょうか?」
と訪ねてきました。
それを見たAさんは一言
「はい、この子です。」
と、答えました。Aさんは今見た男の子の様子を彼女に伝えました。
「そうですか…。」
彼女は、Aさんの返事を聞くとこう語り出しました。
「この写真の子は私の子なんです。名前は隆史(仮名)といいますが、2年ほど前にそこのカーブ
で車に引かれ亡くなりました。「自転車ごと跳ね飛ばされ、道の脇の小川に落とされました…当時5歳でしたが、大変元気な子でした。」
「…じゃぁ、あの子は…?。」
「はい。皆さんが出会った子は隆史かもしれません、ここら辺にそのくらい年頃の子供は居ませんから…。」
彼女は私たちに涙ながらにそう話してくれました。
 
私たちが見た男の子は「隆史」君だったのでしょうか?




投稿者:Hさん