たしか私の友人Tが、彼の友人から聞いた話だったと思います。

その友人は実家を出て一人暮しをするため引っ越すことになりました。
彼にしてみればやっと一人暮しをできるといううれしさでいっぱいの引越しのはずでした。
友人らに引越しを手伝ってもらい引越しそばなどを食べたり、他愛もない話で盛り上がっていました。
暗くなってきたので友人らは各々の家へかえっていきました。

初めての一人暮しの夜・・・新しい生活の始まりにわくわくしながら、眠りにつこうと畳の上に布団を敷き寝床に入りました。
しばらくしてふと目が覚めてしまったので、眠気眼で窓の外を見ていました。
そのアパートは結構古く築何年なのかもわかりませんが、彼にとってそんなことはどうでもよかったのです。
窓の外には青白く月明かりがてっていました。
「寝るか」
そう思ったとき、彼は異変に気づきました。
布団の中から窓を見ると、誰かが窓枠に手をかけているでありませんか。
「泥棒か?」と思い近くにあった灰皿を手に持ち、慎重に窓際へと近づきました。
「!!」
しかし、窓際には誰もいません。
「寝ぼけてたのか……」
彼は再び布団に入り眠りにつきました。


次の日の夜、彼は布団に入った後に、昨日のことが気になったのか、視線を窓際へと送りました。
しかし、別段変わったところもなかったので、眠りにつこうと思い目を閉じました。
ところが、なぜか彼は目が覚めてしまいました。
彼は、上半身を起こし、ふと寝ぼけ眼で窓を見て驚きました。
今度は、窓枠に上半身をのせ誰かが入ってこようとしているではありませんか!
彼も、これにはさすがにびびってしまい、なんともできず布団にもぐりました。
しかし、「泥棒だったらまずい」と気を取り直し、布団から飛び出しました。
しかし、既に窓には誰もいません。
「しまった、中にでも入られたか?」
と思い、彼は慎重に部屋の中を捜しましたが、人の気配も入られた様子もありません。
「だったら、あれは何だったんだ・・・」
彼はこのときほぼある確信を持っていました。
「あれは幽霊に違いない」と・・・。


次の日。
さすがに怖くなった彼は友人の一人に事情を話し、部屋に泊まってもらうことにしました。
しかし、その日は何事もなく朝を迎えました。
「夢でも見てたんだろ。」
翌朝、友人はそういって帰っていきました…。


また次の夜。
彼が寝ようと思ったとき、異様な寒気に襲われました。
布団をかぶり、なんとか寝付こうとしたその時、また窓のほうが気になるのです。
彼は勇気を振り絞り窓に目をやると、髪はボサボサで青白い顔をした女が窓枠に手をかけ、今にも部屋に入ってこようとしています。
「あぁっ! もうだめだ!」
彼は頭から布団をかぶり、必死に考えました。
「こう言うときはどうすれば良いんだ!!考えろ、考えるんだ!」
彼は必死でした。
気が付くと、いつの間にか気配は部屋の中に入ってきていました。
そして、ゆっくりと彼の布団の周りを歩き回っているのです。
「…!」
恐怖で、何がなんだか分からなくなった彼は、
「そうだ、こういう時は南無阿弥陀仏だ!!」
そう思い大きな声で
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……」
と必死に、何度も何度も唱えました。
しばらくすると、彼の周りから足音は消えていました。
「…………よかった」
そう思った瞬間、バサッと布団がめくられ、さっきの女が彼にニヤリと笑いながらさげすんだようにこう言いました。
「ソンナコトシテモ無駄ダヨ・・・」


彼はその後すぐに気を失ってしまったそうですが、今も元気だそうです。
もちろんすぐに彼が引っ越したのは言うまでもありません。



投稿者:gionさん