前述「あとで」でご紹介したとおり、私の母親は「身内の死がわかる」という力がある。
その的中率はすさまじく、私のわかっている限りハズレはない。

この話は、十数年前の話である。
当時、母と姑は仲が悪かった。と、言うより一方的に姑は嫁いびりをしていた。
理由は姑と母と3歳しか年が変わらないとか、当時キャリアウーマンの先端を走っていた姑から見て専業主婦をしている母が気にくわなかった、などいくつかあるのだが、いずれにしても母はいつもいびられ泣いていた。
幸い、姑は自立した女性であったため、高年齢でありながらも、毎月かなりの収入があり、自分で建てた家に、お手伝いさんを雇って悠々自適な生活を送っていた。
そのため
「死んでも、あなたの世話にはならない!」
と言って母との同居をかたくなに拒んだ。
当然、母も無理して同居したうえに、毎日いびられてはたまらない。長男である父は同居を望んだが、母が定期的に顔を出すという条件で同居は回避された。
しかし、月に1〜2度顔を出すだけでも、母はぼろぼろにいびられて帰ってきていた。


ある7月の朝、母が父に突然こう言った。
「お義母さんが必至に、うちへ来なさい…って呼んでる夢を見たの…。」
「また、心配して出掛けて行っても、いびられるのがおちだぞ!」
「それもそうね…。」

その日の話は、それで終わった。


しかし翌朝、
「また、お義母さんが来てくれ!…って今度は叫んでる夢を見たの…。」

ふたたび母がこう言った。
「う〜ん…。でも、お手伝いさんもいるんだし、あんまり夢を気にすんな…。」
「でも…」
「いいから放っておけ。」
父の一言で、その日もそれで話は終わった。


3日目の朝。

昨晩は、お義母さんが私に手を合わせて、早く来て欲しい!…って泣いて懇願してる夢を見たの…。
あんまり心配だから今日あたり行ってみたいんだけど…。」
さすがに、今までの母の言動に不安を感じた父は「こくり」とうなづいた。


早速、母は姑の家に電話をかけたが何度かけても一向に電話は通じない。
いるはずのお手伝いさんすら電話に出る気配が無いのに不安を感じた母は、お手伝いさんの自宅に電話をした。
お手伝いさんは、家にいた。
お手伝いさんは5日ほど前から風邪をこじらせて、寝込んでいるという。
背中に「ぞくっ」と言う悪寒を感じた母は急いで姑の家に向かった…。
家の前に着くと、昼というのに玄関や部屋の窓から蛍光灯の灯りがこうこうと漏れている。
母は、近所の人にお願いして裏口をこじ開け、家の中へと入っていった。

案の定、姑は居間で死んでいた。

当然、変死のためあたりは警察を呼んでの大騒ぎとなった。
結果、医者の見立てでは死亡日時は3日前の夜。
急性くも膜下出血で、即死状態だった。
夏場の締め切った室内に放置されたままであり、あと数日発見が遅かったら遺体の腐敗はかなり酷くなっていただろうとのことだった。
        ※        ※        ※
「きっと、そうなるのがよほど嫌だったのね…。そうでないと、死んでも私の世話にはなりたくなかったはずだもの…。」
母は時折こう話す。


その日以来、姑が母の夢に出ることは無い…。