これもまた、海田氏が中学生の頃の話である。
冬休みの夕方、中学校のわきを自転車で通りがかった彼は校庭で遊ぶ十数人の子供の姿を見た。
何をして遊んでいるのだろうか。
ワイワイと叫ぶその声は楽しげにこちらまで聞こえてくる。

『あっ!中学校の中に小学生が入りこんでらぁ。 見つかったら怒られるぞぉ。』
そう思いながらその脇を通り過ぎようとしたその時、彼はその中の一人の姿を見て立ち止まった。

その子供には顔が無かった。

いや、無かったと言うよりは影の様に黒っぽくなっていて、彼がいくら眼を凝らしても顔の輪郭すらはっきりと分らないのだ。
びっくりした彼は慌てて他の子供たちの顔を確めようと周りをみまわした。
しかし、先程の少年同様、他の子供たちの顔も見えなかった。へたをすると子供の姿形でさえはっきりと分からない。
ただ、黒っぽい影の様な人が校庭のあちら、こちらに蠢いているのが見えるのだ。
彼はとっさに初めの少年を捜した。
しかし、もう彼の姿をその中から見つけることはできなかった。
氏は呆然とその場で校庭のうごめく影達を見つめていた。


- キーン・コーン・カーン・コーン -

学校のチャイムが静かに夕方5時の鐘をならした。

と、突然彼の眼の前でフラッシュをたいた様な眩しい光がまたたいた。
そのあまりの眩しさに彼はとっさに眼をつぶった。
すると、あれほど聞こえていた子供達のはしゃぐ声は聞こえなくなり、校庭から子供たちの気配が消えた。
そして数秒後、彼が再び両目を開けた時には、あれだけいた子供達は1人残らず彼の前から姿を消していたのだった。
それは、彼が子供たちを校庭で見てから、わずか十数秒足らずの事であった。

その数日後の雪の降る中、同じ場所で彼は、誰もいない校庭の新雪の上に子供のはしゃぎ声とともに足跡だけが1歩、1歩ついてゆく所を友人と目撃した。
以来、今日に至るまでこの場所で子供の幽霊の目撃を幾度となく体験したという。しかも、決まって夕方5時前の薄暗い時間帯の事だった。

「あそこでは、この世で成仏できない子供たちが集まって、あの5時の鐘が鳴るまで校庭で遊んでいるのかもしれないな。」
遠くを見ながら悲しそうな眼で、氏はそう語るのだった。
そして加えて、
「幽霊ですら帰宅時間を守るんだ! 人間様が守らないでどうする!」
こうして高校時代、彼はクラブ活動を逃げ出す口実に幽霊を利用していた。